萩原健一『ショーケン』

ショーケンはファンがスゴイからなぁ・・・(たいへん素晴らしいことではあります)
http://ameblo.jp/showken-fun/)とか。
ショーケン、好きかぁ?」と訊ねられれば、30mくらい離れてちょいとコブシを上げ「お、おー・・・!」と同調したいところです。
そんなファンなので、『ショーケン』は先週やっと読みました。
前著『俺の人生どっかおかしい』は当時平岡正明が褒めていたのが印象的で、吉田豪がこっちを取るのも分かる。でも『ショーケン』も「え〜!」というところが満載ですねえ。
1.渋谷・赤坂・六本木でダンパやジャズ喫茶に出演しながら、横浜の『ゼブラクラブ』『カマボコセンター』で寺本圭一の前座もやった。<おれたちの英語はいい加減だったけど、寺本さんは英語がペラペラで>云々。こういう場所でのバンド名はクライング・ベガーズ(泣き叫ぶ乞食たち)、ベガーズ・バンドとしていた。〜〜〜ショーケンは誤魔化したりはするけれど積極的に嘘はつかないタイプだと思うので、じっさいそういうバンド名を使ったのだろうけれど、ローリング・ストーンズ「ベガーズ・バンケット」発売前でしょ?とは思う。あと「おれたち」とか複数扱いにしてるけれど、ショーケンの鉄板な「カタカナ英語」は他の追従を許さないからなあ・・・。
2.「忘れ得ぬ君」リードヴォーカル拒否事件:リード・ギター松崎由治の作るオリジナル「おかあさん」などを一部のメンバーが嫌っていたのは有名な話。「一部」ってのは主に萩原健一と大口ヒロシの最年少コンビだけど。ただし「いい曲もあった」例として挙げられている「神様お願い!」や「エメラルドの伝説」(は村井邦彦の作曲だが)に大きく違うものがあったとも思えない。たぶん歌詞のなかの<(二人の思い出が)走馬灯のように揺れていた>といった妙に文語調(?)な表現が、自分たちの洋楽志向性とは水と油のようでダサく感じていたということであろう。
松崎由治は、あまたいるGSの演奏者の中で最も個性的な演奏を聞かせていた筆頭。ほかに強いて挙げると、内田裕也とフラワーズのスチール・ギター小林勝彦とかリンド&リンダースの加藤ヒロシくらいか。ああ、ビーバーズの石間秀樹やバニーズの寺内タケシの大物2人もそりゃあ個性的でしたが、松崎由治の場合は音楽活動がほぼテンプスに限定されているから印象に残ってしまう。ヒットしたオリジナル曲や「エメラルドの伝説」で聴けるいわゆる<スパニッシュ・ギター的リード>が、カラスの鳴き声のような音色と相まって独特の個性を放っていました。
3.『太陽にほえろ!』テーマ曲:役者に転向してから製作サイドに積極的に関わっていくなかで『太陽にほえろ!』にも盛んに口出しし、テーマ曲設定にも井上堯之バンド(≒PYG)を推し、曲のイメージは「シュープリームスのYou keep me Hangin' on」を指定したという話。確かにイントロ部はスプリームスバージョンに酷似しているが、ノリはヴァニラ・ファッジ版のような気がしないでもない。
4.松田優作との関係:松田優作萩原健一の模倣を繰り返していた、とまでは言えないまでもかなり憧憬を抱いていた記述。『探偵物語』のファッションは「ドンジャン・バンド」の頃のショーケンのコピーだという指摘とか、『ブラック・レイン』は初めショーケン勝新でキャスティングされていたとか(優作&高倉健の役)。この部分がもっとも諸説あるところなんだろうなぁ。ショーケンの記述だと、明らかに製作者サイドは松田優作の病状を把握した上で再度萩原に出演打診してるようだし。松田美智子『越境者 松田優作』と照らし合わせても謎は残る。
5.収入・金銭関係の記述、特に『傷だらけの天使』:複数のゴーストライターによる執筆疑惑もあるこの本。真偽のほどはわからないけれど、こと金銭関係のしっかりした記述は一貫している。アマチュア時代のギャラ1日3500円÷5人=700円、スパイダクション入社当初一人月給30,000円(税抜き27,000円)、PYGでナベプロ入り固定給毎月100万円プラス個人の仕事歩合制、PYG脱退後渡辺企画へ移籍、『前略おふくろ様』で年収にして1億五,6千万円ナベプロ系ではトップレベル。『傷だらけの天使』のギャラは1本30数万円だったが、渡辺企画は企画料・マネジメント料込みで100万取っていたという。それよりも『傷だらけの天使』1本の制作費が実質980万円だったというのはどうなんだろう(相場は1300万円とあるけれど)?一番安かった水谷豊が20万円というのもどうか・・・?割と衝撃的な値段のような気がする。(いちばんギャラ高の岸田今日子の値段は記さず)
6.バック・バンド「ドンジャン・ロックンロール・バンド」80年〜85年期のバックなのだけれど、この「ドンジャン」はカルロス・カスタネダ『呪術師と私』に登場する呪術師ドン・フアン・マトゥスに由来するという。萩原氏の教養を貶める気はさらさら無いけれど、カスタネダが語られる中沢新一島田裕巳なんかの路線とは違うような・・・、ああ、だからドラッグ・カルチャーの実践派と理論派の違いってヤツ?あと、当時友人なんかは「ドンジャンはねえだろう」みたいなことは散々言っていましたな、「萩原健一文盲説」も流布してたし。
7.これは人によって違うと思うが・・・。人生の相談相手として何かと瀬戸内寂聴が登場するのだが、人選として的を得ているのか?マイケル・ジャクソンが終生ダイアナ・ロスと親交を持っていたのと同じで、かえって足枷となってしまってはいないか?ミスキャストの疑念が拭えない。

ショーケン

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俺の人生どっかおかしい

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越境者 松田優作

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ベガーズ・バンケット

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