本牧ブルース/ザ・ゴールデン・カップス

新シリーズ・スタートか・・・。言われてみれば確かにパクリだが、今更そんなこと知ってもあんまり有り難味がわかない物件を紹介するものです。
きっかけ(というほどでもないか)は、『唐沢俊一検証blog』(以下・『検証班』)09-06-03の「ハナの首飾り。」(http://d.hatena.ne.jp/kensyouhan/20090603/1244026835)でグループサウンズのザ・タイガースの話題となって、加橋かつみ脱退(ナベプロ側からいうと除名)問題についてあれこれ確認している最中に思い出したので、忘れる前にメモしとこうという魂胆ではじめました。なお『検証班』内の記事は改定され、加橋問題は消えています。本にする際補足されるそうです。〔追記・検証本は刊行されました。おめでとうございます〕

問題となったのは唐沢俊一『昭和ニッポン怪人伝』の

(前略)最初にグループで売り出して、その後、メンバー個々の個性に合わせて単独で売り、しかし定期的にグループ単位でのコンサートを開いて、グループが健在であることをファンにアピールする、という売り方は、当時、ナベプロと提携し、のちに大きなライバルとなっていくジャニーズ事務所ジャニー喜多川が最も積極的に採用し、大きな成功を収めていくことになる。
 SMAPTOKIOKAT-TUNの存在に、クレージーキャッツが影響を与えているというのは、ちょっと意外かもしれないが、クレージーとジャニーズ系のアイドルたちは、ザ・タイガースを間に挟んで、血のつながった兄弟なのだ。

という記述で、『検証班』でもさんざん指摘されている通りクレージー・キャッツのソロ&グループ活動とタイガースのケースは一緒にして語れるほどの共通項は無い。
そうすると加橋かつみ脱退(ナベプロ側からいうと除名)問題というのは、どういう経緯なのか?『キャンティ物語』(野地秩嘉)や『タイガースの真相』( http://thetigers.livedoor.biz/)そのほかによると、68年中頃から脱退の意向を示しだした加橋かつみに「キャンティ」人脈が関わり、それに危機意識を持ったナベプロ側が「失踪を繰り返すわがままな加橋へのリスク回避」として除名処置を取ったという説があるらしい。こうした手続きを取って加橋を切ったナベプロが、加橋を加害者、ナベプロを被害者と映るように見せたという。
また一説には渡辺美佐も加橋側に絡んでいて、事務所側も一枚岩と言うわけではなかったとする見方もあるらしい。これは渡辺晋と美佐の音楽嗜好性の違い、美佐のロカビリー以降の音楽への関心度などが根拠になっているのかな?

それでまあ、いろいろ調べてるうちに村井邦彦はこの件にどのくらい関与してるのかなあ、ということが気になってきました。加橋かつみのゴタゴタの最中に録音・リリースされた『ヒューマン・ルネッサンス』は完成度の高いクラシカル・エレガンスなアルバムとして定評がありますが、それゆえ同時に最もガレージ度の低い魅力に乏しいGSアルバムとして貶されてもきました。このアルバムからタイガースに関わりはじめた村井邦彦は半数の曲を手がけ、以前からのすぎやまこういちと互角に扱われています。村井はキャンティ人脈の一人であり、加橋の1stソロでも多くの曲にクレジットされていますが、にもかかわらず新生タイガースにも引き続き深く関与しています。それは映画第一作『世界はボクらを待っている』でのリハーサル・シーンにすぎやまこういちが本人役で出ているのと、三作目『ハーイ、ロンドン』のリハ・シーンが村井邦彦なのとでも確認できますね。
村井邦彦はこの後アルファ・レコードを設立し経営者サイドとして荒井由美やYMOの成功に大きく関わるのですが、ある時期までは作曲家としてその後ソフト・ロックと括られるジャンルで活躍しました。その音楽性を考えると、あえて沢田・加橋の二者択一に限定すれば「ビージーズ・テイスト」の加橋が村井の楽曲にふさわしいでしょう。アルファ設立を見据えて川添浩史だか梶子だか象郎だかとの画策があったであろう想像はあるのだけれど(そしてそれのひとつが加橋かつみの1stソロ・アルバムなのであろう)、具体的にどうだったのかまだ見えてはいない。

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あ、で「パクリうた」ね。
本牧ブルース」/ザ・ゴールデン・カップ

作詞:なかにし礼、作曲:村井邦彦

「 Pride Of Man」/Quicksilver Messenger Service


下敷きにしている、ってカンジですね。あえて違う部分を挙げると、ケネス伊東のリズム・ギターが跳ねてるのと、(昔の言い方でいう)「サビ」のメロディアスな展開、あとコーラス・ワーク(カップスのメンバーだろうか?)の3点くらいだろか。歌のメロディはもちろん違うが、コンセプトやサウンド全般「Pride Of Man」を手本にして出来上がった曲であるのは議論するまでもないですね。このころはカバー(もしくはコピー)する曲目が音楽性の高低の基準とされていて、「オリジナル」とかが特に尊重されてたわけではないので、これはこれでありなんです。私はどっちも好きですね。やっぱりエディ藩のリード・ギターが聴きどころ。クイックシルヴァーのジョン・シポリナのビブラートが強くかかったソロも、もちろん素晴らしいですが。村井邦彦というと透明感のある壮大なバラードが得意なイメージなので、こういうブルージーかついかにもムーディな歌謡曲ってあんまりらしくないですね(モップスの『朝まで待てない』とかも)。ホーン・アレンジに仕事してるニュアンスは感じますが(いやまあ、それこそがパクリでもあるのですが・・・)。
ああ、そういえばカップスも集散離脱激しいバンドで、マモル・マヌーが脱退してソロ活動始めたのはエディとの確執もあったようだけど加橋ケースのような外部からの働きかけもあったという話ですね。彼は3rdシングル『長い髪の少女』と次の『愛する君に』ではリード・ボーカルのデイヴ平尾を差し置いてフューチャーされています。沢田研二・デイヴ平尾のブルージー派対加橋かつみ・マモル・マヌーのバラード派、というと図式的過ぎますね。
マモル・マヌーはジャケット内一番前のセーター君。右のメガネ君はルイズルイス加部、その美少年ぷりは少女たちにとってまさしく失禁モ・・・いや、なんでもないです><。また加橋かつみが参加したロック・ミュージカル『ヘアー』で大麻騒動があったちょうど同じ時期に、カップスのデイヴ平尾・ミッキー吉野大麻で引っぱられています(ミッキーはこのためにバンド脱退となる)。面白いと思うのは、『ヘアー』の逮捕者が4人ということは各資料にわりあいによく書かれているんだけれど、けっして誰と誰が捕まったと名指しは回避されてるんですよねえ。そういうのがキャンティの威光、なんだろうか(よく知らないけど)。
デイヴ平尾のボーカルにしばし黙祷。

ヒューマン・ルネッサンス

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パリ1969(紙ジャケット仕様)

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キャンティ物語 (幻冬舎文庫)

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ブルース・メッセージ(ザ・ゴールデン・カップス・アルバム第三集)

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クイックシルバー・メッセンジャー・サービス

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