安保強行採決に抗議し、岸信介を非難する1961年の石原裕次郎

『映画の黄金時代――銀幕のスターたちは語る』は、キネマ旬報で1961年1月上旬号から12月下旬号まで連載してた山本恭子対談「おたずねします」より抜粋された対談をまとめたもの。第1回目は石原裕次郎で、公開中の『闘牛に賭ける男』を中心にした話となっている*1が、時局柄安保の話題にも触れている。

山本:こないだ池田(勇人)首相と対談なさったそうですけど、あなたは政治には強いの?
裕次郎:ぼくは、ぜんぜん政治には興味がなかったんですけども。いままで、ぜんぜんなかったな。だから、あのとき、ぼくは1回も選挙に行ったことはないと言ったらおどろいてやがんの(笑)。ただね、5月19日(安保強行採決日)、あのとき、いまでも忘れないですよ。単独採決をやったでしょう。岸さんが。あれから全学連のデモが続いたときは、ぼくもほんとうにプラカードをかついで歩きたかったな。あの出っ歯のおじさんがね。
山本:出っ歯のおじさん?
裕次郎:岸(信介首相)さんですよ。
山本:ああ(笑)
裕次郎:あいつ一人のため日本がゆさぶられた。その前に李承晩の京城事件(注:四月革命のことを指す)があったでしょう。ああいうふうになるんじゃないかと思って、あのときははじめて政治のこわさ、こわさというのかな、ぼくなんかまだ若いんだし*2、ほんとうにおれなんかも、もっと政治を理解しなければいけないなと思いました。“若い日本の会”というのを兄貴がやっているんですけど、あのときは安保賛成とこ反対ということではなくて、ああいう、いわゆる岸さんの国会でやったようなことに対しての批判なんです。そこへ安保反対という連中が集まって、対談会があったんだけれど、ぼくは出られなかった。しかし、あのときの岸さんには憤慨しましたね。そんなことも池田さんに話したんです。
山本:それで?
裕次郎:それで、とにかく、お前さんたちも、しっかりしてくれよ、と言ったんですよ(笑)。
山本:池田さんの方を叩いたのね(笑)。
裕次郎:そうしたら気に入られちゃった(笑)。いろいろ悪口いってきたんだけど。しかしぼくは池田さんは好きですよ。

お終いのところ、けっきょく池田勇人にテもなく懐柔されてるんじゃないの?というカンジだが、安保問題についてはきわめて冷静に判断している裕次郎

闘牛に賭ける男 [VHS]

闘牛に賭ける男 [VHS]

*1:『闘牛に賭ける男』はものの本によれば配収2億9千133万円で、1960年日本映画配収上位ランキングで4位となっている。3位も裕次郎映画『天下を取る』で3億2千392万円とのこと。

*2:当時26歳になったばかり。北原三枝と結婚ホヤホヤ。