『偏偏愛上洋葱』と音楽のトレース

さきごろ大張偉の『偏偏愛上洋葱』の話題が沸騰していた。スピッツの『空も飛べるはず』の盗作であるという批判だ。<スピッツの『空も飛べるはず』の盗作ではないのかという疑惑だ>、と書こうかとも思ったけれど、ここまでなぞったように似ていると、冷静に考えて「模倣」以外の何ものでもないと思います。
ただまあ、2010-04-16 - もうれつ先生のもうれつ道場この日に書いたバウ・ワウ・ワウの盗作のように、完全トレースしてるわけではない。バウ・ワウ・ワウのケースは、マルチ・トラックにオリジナル(パクリ元)をコピーして、それを聴きながらメンバーがなぞっているだろうと判断される(歌詞だけ英語のオリジナル)。キーもテンポも同一なのがその理由。バウ・ワウ・ワウをフォローしておくと、80年代のあたまの若い英国ミュージシャンでマホテラ・クィーンズやジルベルト・ジルの曲を完コピできたってことは、演奏能力が高いことの証明なのではあるけれど。
その点、『偏偏愛上洋葱』はオリジナルとキー、テンポともに違い、アレンジ面でもスピッツの『空も飛べるはず』が12弦ギターの印象的なバーズ風フォーク・ロックであるのに対し、いわゆるJポップ的クリシェのアレンジで展開してゆく。<Jポップ的クリシェ>とは具体的には、スピッツ・ヴァージョンの跳ねるリズム(キックが抜けたり、スネアのアクセントがズレたりなど)をスクエアなリズムに変えクセをなくしたところ、ヴァース9小節目から絡んでくるコーラスなど(下の動画でいうと、0秒から17秒までのソロ・ヴォーカル部と17秒から32秒のハーモニーのついた部分との対比)を指す。さらに各ドミナント部のコード進行も単純な形に作りかえ(ヴァースの13秒と29秒あたり、コーラス部の47秒、両者ともオリジナルのドッペルドミナントを回避している)、雰囲気の異なるブリッジ部はミドルエイトに移動(1分06秒から1分21秒あたり)するなど、上海万博のような公共の場にふさわしい、アクのないアレンジを目指した意図があることが窺える。ま、パクってるのですけど。

空の飛び方

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