若き日の八切止夫

伊藤整『古い日のこと』のなかに、若き日の八切止夫―サンカ研究家にして歴史妄想家―が登場する。
昭和10年(1935)前後、日大藝術科の夜間部で創作実習を教えていたころの話。


いつも教壇のまん前の席に陣取って、毎時間30枚ほどの自作の小説を読み上げる、目鼻だちの整った青年がいたという。彼の小説のどの話も、いっぷう変わって興味をそそられたが、内容を詰めこみすぎて話が破綻しており、みんなが理解するのにはついていけなかった、という。
また、その青年は薄化粧をして教室へくる、という噂がたち、伊藤講師は、それがオスカー・ワイルド的、谷崎潤一郎的であって、面白かった、と回顧している。


大村彦次郎氏によると、昭和39年『寸法武者』で八切が小説現代第3回新人賞をとったとき、授賞式の席上、出席者ひとりひとりに消火器を配ったそうだ。八切曰く、委託販売をしていたが、「暮しの手帳」の実験報告で、石油ストーブの消火には消火器よりも水をかけるのがいちばんよいという結果が発表され、返品の山の置き場に困って云々、というのだが、どこまで信じてよいやら・・・。


大村氏は、「(八切は)その頃まだめずらしかったかつらをかぶってきて、人目についた。そのカツラがまた、すこしズレているところがおかしかった。」とも書いていて、ああ、なんかヘンとは思っていたけど、やっぱり八切先生、ヅラだったんだ。

サンカ生活体験記

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