「みかこさんが知ってるあの子のこと」


みすず12月号・ブレイディみかこ「子どもたちの階級闘争」 7.<ふぞろいのカボチャ>要約
英国の幼児教育のフレーム・ワークEYFS( early years foundation stage)は、7分野のカリキュラムを2歳と5歳のときアセスメントするので、保育士は日常的に、発育を測定し文書に残すという手間のかかる作業を課せられる。トニー・ブレアが首相だった頃からの政策(幼児教育施設を「子供を預かる場所」から「子供を教育する場所」へ)。労働党政権が定めたEYFSは「ナッピー(オツム)・カリキュラム」と呼ばれリベラルから批判されるが、とはいえ、重視されているのはエモーショナル・インテリジェンスの発達である。
みかこさんの勤める託児所では、子どもたちの間で、外国人(移民)チームと地元英国人(より正確には依存症の親を持つ底辺層)チームの対立があるという。託児所におけるマイノリティは後者。上記情操教育カリキュラムなんかには、外国人チームは健康的なリアクションを示すが、アルコールとドラッグ依存症の親を持つケリーなんかは「ふん。バッカみたい」てな不敵な対応をとる。

大学で心理学を学んでいるヴォランティアの青年「移民の子どもたちのほうが明るいというか、彼らのほうが幸福な子どもたちに見えるというのは不思議な発見です」「どんなにプアでも、過去より未来のほうがよくなるんだと信じられる人々のほうが幸福度は高い。でも、それがこんな年齢の子どもたちにまで当てはまるとは……」。
年下の子の三輪車を奪ったりするケリーを、託児所の1番年長、チェコからきたアンナは非難しまわりもそれ同調する。でも、ハロウィンのカボチャ・コラージュをつくるとき、接着剤で机に直にミルクボトルの丸い蓋を貼り続けていたケリーをアンナは押し倒し、みかこさんはアンナを叱った。なにはともあれ押し倒するのはよくない。
道義的なこととは別に、ケリーの「作品」を、みかこさんはけっこう肯定的に見ている。さすがパンクス。
それで、机に直じゃなく、台紙に草間弥生ばりにミルクボトルを貼りつけたケリーの「作品」を展示しようと、名前を記入するために台紙を裏返して見ると…。というのが、このブレディみかこ版「私の知ってるあの子のこと」のクライマックス。


ブレア時代の教育政策は外国人保育士を増やす指針を掲げ、みかこさんもその流れで保育士になった。そうしたからといってどうなる?とみかこさんは疑問だったが、長く続けるうちその意味がわかるようになったという。白人以外の大人と接触のなかった1歳児2歳児は化け物でも見たかのようなリアクションを示すことがあり、そういう場合は、白人の保育士と交代してもらうしかない。が、そういう経緯で始まった子どもほど、小学校に進む頃には一番なついたりして、卒園するときには互いに泣きながらハグしていたりするそうです。

みすず 2015年 12月号 [雑誌]

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棒がいっぽん (Mag comics)

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