荒木一郎とマグマックス・ファイブ

追記あり
一万一千の無知。 - 唐沢俊一検証blogアポリネールの『一万一千本の鞭』は中学のとき読んでショックを受けた。まだ富士ロマン文庫系のエロ文庫が出回る前の頃で、エロに目覚めたけれどマニアックな世界にはまだ躊躇がある中坊は、大手から出ていた吉行淳之介の『砂の上の植物群』やポーリーヌ・レアージュ『O嬢の物語』、テリー・サザーン『キャンディ』など読み漁っていたのだが、文学的テーマが重荷になってエロに集中出来ない歯がゆさがつきまとった。その点『一万一千本の鞭』は面倒くさいことを言わない、「中学生にも薦められる健康的なエロ・グロ」だった。そういえばアポリネールって安部譲二が好きな作家だったはず。

が、今回は『一万一千本の鞭』の話ではない。唐沢俊一の話でもみうらじゅんの話でもない。

冒頭取り上げられた「吉田豪さんのポッドキャスティング番組『豪さんのポッド』第153回」http://110.50.193.195/gosan/gosan_153.mp3を聴いてみたら、俳優前田吟の経歴について、俳優のかたわらGSバンド「マグマックス・ファイブ」のボーカルでも活躍し、キンクス「ユー・リアリ・ガット・ミー」を得意とした云々という話が流布しているが、本人にインタビューしたところガセネタであったという。

この噂、最初から捏造する意図で流布されたのかどうかはともあれ、GSバンドとして「マグマックス・ファイブ」をチョイスしたあたりに絶妙な手腕を感じる。以下はその辺のメモ。

「マグマックス・ファイブ」というバンドは語られることはもともと少ないのだが、GSバンドの範疇としても「○○というバンドの誰それは元マグマックス・ファイブ」というかたちでしか語られてきていない。それは、荒木一郎という人気俳優のバック・バンドという位置付けが大きいが、荒木一郎の音楽そのものがGSにも普通の歌謡曲にもフィットしにくい、非常にワン・アンド・オンリーなせいでもあると思う。鹿島茂『甦る昭和脇役名画館』を読んでも、位置づけが非常に難しい人だと感じる。
元マグマックス・ファイブのメンバーのいるGSバンドは「ポニーズ」と「スカイホークス」の2つだ。
「ポニーズ」は、「元マグマックス・ファイブ」の原田正美(lg)と元ヴァインズの2人・籠利達郎(ds)谷田部進(b)、それに橋本直樹(sg)の4人組。デビュー・シングルの原田正美作曲『ブルー・エンジェル』は、GSというにはソフト過ぎるバラードだが名曲。2枚目のB面『アガナの乙女』はシタールを使用したエキゾチック・サウンド湯川れい子作詞)。
いっぽうの「スカイホークス」の構成は小原重彦(b)平野民樹(d)佐藤真栄(lg)秋元茂(sg)。小原と平野、佐藤が元マグマックス・ファイブ。1枚のシングルしか残しておらず、それもフォーク・クルセダーズ「帰ってきたヨッパライ」のアンサー・ソング『天国からのお迎え』。しかしB面の佐藤のオリジナル『リボンの娘』はビートのきいた正統派GSサウンド。GSバンドはメンバー・オリジナル曲は少なく、元マグマックス系2バンドが例外的に自作をレコーディングしているのは、マグマックス・ファイブやヴァインズの周辺がGSというよりフォーク系であったからではないだろうか?
2バンドともヒットにはいたらず、「ポニーズ」残党は「ミュージック・ボンボン」、「スカイホークス」残党は「チェックメイツ」と新バンドを結成。だが後々原田・小原・佐藤の「元マグマックス・ファイブ」組は合流する。それが「新生トップギャラン」だったhttp://blog.goo.ne.jp/toppa987/e/9941adecd6f6688142ce5097fa0f8874
「新生トップギャラン」と「旧トップギャラン」のちがいは(たぶん)リード・ギタリストが佐藤真栄か否かだと思う。

マグマックス・ファイブの映像はここ
左手ドラムスが平野民樹、中央の荒木一郎の右側から、佐藤真栄(lg)原田正美(sg)小原重彦(b)だと思う。演奏は当て振り口パクだが、1分07秒から大写しになるリード・ギターの指使いはテープ通りと判断され、レコーディングもこのギタリストの演奏であったと推察される。荒木一郎が弾いてるのがビートルズ使用で有名なギブソンJー45なのは、シングル盤スリーブでもそうなので驚くことでもないけれど(さすがチャンボツ)、ベースがフェンダーの6弦ベース、ギターもヤマハセミアコと(おそらく)エコーのソリッドで、決して安い機材ではない。同年のヒット美空ひばりの「真っ赤な太陽」もそうだけれど、いわゆるブルー・ノート、短3度のメロディーと、ブルース進行ではないにもかかわらず曲構造が妙にロックンロールを彷彿とさせるところ、ブレイク時の「ゴー」といった部分に代表されるダウナーなイメージが、物凄く古くて凡庸な要素と物凄く新しい要素の混在したところか。
ガセの噂とすり合わせると、リード・ボーカル前田吟の位置にいるのは編成的にサイド・ギター原田正美なのであろうか?そこまで考えたガセネタじゃないか……。
この時期トップギャランのリーダー森田公一は「原トシハルとB&B7」のメンバーとして活動していた。明星付録「歌謡ヤング・コンサート」に名前が載るhttp://www31.ocn.ne.jp/~goodold60net/htm_fils/utahon/um6704b.htm
。特集の括りとしてはGS系とカレッジ・フォーク系が紹介されているが、「原トシハルとB&B7」はラテン系のムード・コーラス・バンドといったサウンド。シングルを10枚近く、LPを1枚発表しているもようhttp://www.pp.iij4u.or.jp/~marukazu/homepage/moodchoals.htmB&B7離脱後、森田公一は自分がリーダーの「ナイト&デイズ」(『バラをあの娘に…』のデイ&ナイツと紛らわしい)を結成、スカイホークス解散後の小原が参加している。同じスカイホークス組でも佐藤真栄のほうは「チェックメイツ」を結成しており、この辺の分岐が「旧トップギャラン」参加か否かの分かれ目となったようだ。

森田公一とトップギャラン。ベースが小原重彦、隣のテレキャスター・カスタムを弾いているのが原田正美。

カルトGSコレクション (コロムビア編) Vol.1

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カルトGSコレクション(コロンビア編 Vol.2)

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999 Best 森田公一とトップギャラン

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ゴールデン☆ベスト

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甦る昭和脇役名画館

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豪さんのポッド 吉田豪のサブカル交遊録

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一万一千本の鞭 (1983年) (富士見ロマン文庫)

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