「唐沢暗黒面」<竹熊健太郎あたりが例によっていいかげんに・・・>


kensyouhan氏も呆れているように(というのは被害妄想だが)、いしかわじゅんの「暗黒面を見たか」が『スターウォーズ』のダースベイダーに由来するということすら知らなかったSF音痴の私です。したがって、過去まがいなりにも一時所有していた『社会派くんがゆく!維新編』に「フォースの韓国面」(2005年7月の回)というタイトルがあっても完全にスルーしていたのは言わずもがな。

社会派くんがゆく! 維新編

社会派くんがゆく! 維新編

さて、その回のくだりより(P.333)

村崎 杉浦日向子さんが死んだのも驚いたな。咽頭がんだって。
唐沢 あの人はスタイルに殺されたな。蕎麦屋で彼女見たって人がやたらいるんだが、いつも一人で、日本酒冷やでクイっとやってたんだと。咽頭がんで酒あおってたら死ぬわな。
村崎 わずかに残っていた江戸文化がまた一つ消えたって感じでとてもガックシだよ。『YASUJI 東京』や『百日紅』とか大好きだったけどなー、オレ。
唐沢 オレも『合葬』とか、一時すごく好きだったんだけどね、杉浦さんのマンガはいわゆるマンガ読みじゃない人にも読める、親切なマンガだった。ただ後年“江戸パラダイス論”みたいなことを言い出して、「とにかく現代より江戸の方が素晴らしい!」とか吹聴しまくってた。あの辺からちょっと違和感が出てきてね。
村崎 確か時代考証なんかは、(歴史小説家の)稲垣史生に師事してたんだっけ?
唐沢 知り合いの編集者に訊いてみたら、「あれはもう色気でとりいったんです。杉浦さんは別に稲垣先生から何にも学んでいないですよ」とか言っていた。やっかみ半分だろうが、彼女が類い稀な江戸の宣伝レディであったことは認めるにやぶさかではないけれど、果たして歴史考証という職業をどこまで本気でやろうとしていたのか、にはちょっと疑問符をつけておきたい。竹熊健太郎あたりが「マンガ家としての才能と時代考証家としての知識がここまで高度な融合を遂げた例を他に知らない」とか、例によっていいかげんに持ちあげているけど、彼女の江戸風俗ものはともかく、歴史ものとか奇譚ものって、ネタ本がちょっとマニア的に歴史文献を読んでる者ならすぐわかってしまう程度のものでね。しかもそのネタ元を明かさない。マンガ家ならともかく時代考証家としちゃこれは問題とされる態度で、そこらへん、一般読者ならともかく評論家として手放しで持ち上げてはいかんだろう。

この部分はこの回の出だしに近いのでまだメートルが上がってないのか、はたまた愛着のある杉浦日向子先生に鬼の仮面はかぶれなかったのか、村崎さんいつにも増してハートウォームな鬼畜ぶりです。村崎発言だけピックアップすると、NHK教育の司会ですら任せられそうな按配であります。「鬼畜はクサしてこそ命、紙袋の裏に涙の染みひとつ」みたいな・・・。いやいや、きっと「鬼畜なら常に鬼畜発言をするはず、という愚かなる読者の期待を裏切る意味で、敢えて常識的な発言をしてる」っていうんでしょ?でしょ?でしょ?そうなんでしょ?
それに比して、唐沢俊一のみごとなまでのクズっぷりよ。う〜ん、そういう意味では、これはこれで成功してるのかな?でもこの場合、村崎百郎の気配り進行がバランスを取っていて成功してるので、じゃあいっそのこと、鬼畜唐沢vs常識人村崎で役割固定したほうがいいかもね。
「あの人はスタイルに殺されたな」「咽頭がんで酒あおってたら死ぬわな」いつものことだけど人の死について語る時の無神経さ、いささかの逡巡もないのが凄い。同業者・ライバルを話題にするとき必ずつける「竹熊あたり」とか「松沢ごとき」という言い回し、そして出ました「蕎麦屋で彼女を見たって人がやたらいるんだが」「やっかみ半分」の「知り合いの編集者に訊いてみたら」という他人経由の「怪情報」(http://tondemonai2.blog114.fc2.com/blog-entry-26.html参照)。当然ですが、竹熊発言とみなされる杉浦日向子評も、本当に竹熊発言か(あるいは竹熊発言の大意として適当か)保留されるべきなのは言うまでもないでしょう。
「ネタ元を明かさない」「歴史ものとか奇譚もの」ってのがどの作品を指しているのか不明ですが、例えば『百物語』なんかで柳田國男遠野物語』からエピソードを引っぱってきているなんてのは調べるまでもないところです。でもこういうのって、「時代考証」的な側面で批判する問題となるのかなぁ?言い方は悪いけど「古典からネタをいただくこと」で作品に陰影をつけるこの手法は、比較的歴史の浅いマンガというジャンルのなかではかなり多く見られるケースだし、そもそも初期の唐沢商会のパロディなんかも、「野暮嫌い」の唐沢俊一のポリシーなのか出典を明示してないからなぁ。
あ、いちおうフォローもしとこう。。唐沢俊一が、類い稀かどうかはさておき、それなりな貸本漫画の宣伝マンであったことは認めるにやぶさかではないけれど、果たしてマンガ批評家という職業をどこまで本気でやろうとしていたのか、には大いに疑問符をつけておきたい」(←いちおうフォローのつもり)

YASUJI東京 (ちくま文庫)

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百日紅 (上) (ちくま文庫)

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百日紅 (下) (ちくま文庫)

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合葬 (ちくま文庫)

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