いしかわじゅん「秘密の手帖」

ブログ再開する気は無いけど、こっちに書いとくか・・・。もとはここからの派生ですhttp://d.hatena.ne.jp/kensyouhan/20090213/1234513007

秘密の手帖

秘密の手帖

この本は、知り合いの物書きを肴にした文芸評論ふう連作エッセーといえばいいのかな・・・?
知り合いだから、基本的には褒めているわけですが、いやまあなんというか、そこはいしかわ大人、巧いワケですね。マンガ『フロムK』とかでも辛辣な批評性、もしくは嫌ったらしい性格が光っていたので、「いしかわじゅん、マンガより文章のほうが達者なのでは?」と言うつもりもないのですが、文章のほうが辛辣なところがより活きているような印象です。
懸案の唐沢・岡田に限らず山田詠美などについてもスゴイ暴露話になっていて、読みすすむうちに読み手としても義憤にかられてしまうのですが、山田詠美に拳に上げそうになるその刹那に絶妙の間でペンの勢いを引いて、それもまた彼女の愛すべき性格としてまとめてしまう。「押さえるべきところは押さえる(べつに押さえなくてもいいのに><)」そこはホントに名人芸ですね。だてに「嫌ったらしい性格」長くやってないです。
岡田斗司夫については高千穂遙山田詠美と並んで何回も話題にしているのですが、問題なのは大月隆寛の回で、『BSマンガ夜話』の司会術について岡田氏そのほかと比較しているところ。

デブな人間は、外見的な温和さとは裏腹に、案外、孤立しがちで狭い世界に入りこみがちな人が多いような気がするのだが、大月は違うような気がする。楽天的な世界観に裏打ちされた、人間への妙な連帯感のようなものがある。(略)口はかなり悪いほうで、他人に対して厳しいこともいうが、意地は悪くない。どんなに放り出しておいても、人間はそう悪くならない、と大月はきっと思っているだろう。まかしておけば、自ずから矩を超えずに一定のルールはできてくる、と思っているに違いないのだ。
(中略)
岡田は頭がいい。常に全体を見て、構成の都合まで考えて、番組を進めようとする。しかし、全体が見えすぎていて、雑談の不思議さがない。司会者の意志が見えすぎる。
おそらく、岡田は、人間を信用していない。人間なんて、放っといたらなにをするかわからないと思っているに違いない。長く経営者をやっていた経験が、ベースにあるのかもしれない。発言者としては、その計算がうまく働くのに、司会者としては、発言者を管理下に置こうとしすぎるのだ。

もちろん岡田氏に悪いニュアンスでは描かれてはいない。むしろ大月氏の表現に愚鈍さ(?)を強調することで岡田氏にプラスなイメージが加味されたかたちだ。しかしそういう「纏め方」の裏で岡田氏の弱点もしっかり指摘されている。大月氏との比較としてなら、「岡田は、人間を信用していない。」「司会者としては、発言者を管理下に置こうとしすぎるのだ。」という言い切りまで進めるのは、もう少し温厚な・凡庸な評者であるならば勇み足というかレッドゾーン進入だろう。が、そう言わずに終わらないのがいしかわじゅん。そしていしかわじゅんは、もちろん岡田斗司夫を好ましく思っているだろう。岡田斗司夫検証やら唐沢俊一検証などで熱くなっている私など、比べれば脆弱な「怒れる若者」程度のものだろうし、そういう意味においていしかわじゅんは「老獪」だろうという結論に達しました。

唐沢俊一編は後日へ・・・